パイプライン設計

RTL設計

この記事で学べること

  • パイプライン設計の基本概念(ステージ、レイテンシ、スループット、ハザード、II など)
  • なぜパイプライン化が性能向上に有効なのか、その背景と目的
  • 実務での利用シーン(CPU、DSP、RTL 設計、FPGA、SoC など)
  • パイプライン設計における注意点と典型的な誤解
  • 設計フローとの関連(タイミング収束、レジスタ挿入、RDC/CDC との関係)

概要(全体像)

パイプライン設計とは、処理を複数の段階(ステージ)に分割し、各ステージを並列に動作させることでスループットを向上させる設計手法です。

工場のベルトコンベアのように、1 つの処理を複数の工程に分けて同時進行させることで、全体の処理量を増やすことができます。

デジタル回路では、ステージ間にレジスタを挿入し、クロックごとにデータを前段から後段へ流すことで実現します。これにより、高い動作周波数・高スループット・安定したタイミングを得られます。


なぜ重要なのか(背景・目的)

高スループット化

毎クロック新しいデータを処理できるようになり、処理能力が大幅に向上する。

高周波数化

長い組み合わせ回路を分割し、クリティカルパスを短縮することで高いクロック周波数を達成できる。

設計の安定性向上

ステージ分割によりタイミング収束が容易になり、物理設計でも安定した QoR を得やすい。

モジュール化・再利用性の向上

ステージ単位で機能を分割することで、検証・デバッグ・再利用が容易になる。


基本概念の整理

パイプラインステージ(Pipeline Stage)

定義:処理を分割した 1 つの段階。前後にレジスタを持つ。
:IF → ID → EX → MEM → WB
実務での意味:ステージ数は性能・レイテンシ・消費電力に直結する。


レイテンシ(Latency)

定義:入力から出力までの処理に要するクロック数。
:5 ステージなら 5 クロック。
実務での意味:レイテンシは増えるがスループットは向上するというトレードオフがある。


スループット(Throughput)

定義:単位時間あたりに処理できるデータ量。
:毎クロック 1 データ処理できれば高スループット。
実務での意味:AI/画像処理/DSP では最重要指標。


ハザード(Hazard)

定義:パイプライン化により発生する競合や不整合。
:データハザード、制御ハザード、構造ハザード
実務での意味:ハザード処理は CPU 設計の中心課題。


レジスタ挿入(Register Insertion)

定義:組み合わせ回路を分割するためにレジスタを追加すること。
:加算器 → レジスタ → 乗算器
実務での意味:タイミング収束のための最重要テクニック。


パイプラインバブル(Pipeline Bubble)

定義:ステージが空になるクロック。
:ハザード処理で 1 サイクル待つ場合など。
実務での意味:性能低下要因。


イニシエーションインターバル(Initiation Interval, II)

定義:パイプラインが新しい入力を受け付けられる最小クロック間隔。

  • II = 1 → 毎クロック投入可能(理想)
  • II = 2 → 2 クロックに 1 回しか投入できない

:画像処理フィルタ

  • II=1 → 毎クロック 1 ピクセル処理
  • II=2 → スループット半減

実務での意味
HLS、DSP、画像処理アクセラレータでは II=1 を達成できるかが性能の鍵
リソース競合・メモリ帯域・ループ依存が II を悪化させる。


実務での具体的な利用シーン

CPU マイクロアーキテクチャ

命令フェッチ〜実行までを多段化し、GHz クラスの動作を実現。

DSP・画像処理アクセラレータ

フィルタ処理や行列演算をパイプライン化し、毎クロック処理を可能にする。

FPGA/ASIC の RTL 設計

  • 高速化のためのレジスタ挿入
  • CDC/RDC を考慮したステージ分割
  • P&R のタイミング収束を容易にするためのパイプライン化

ネットワーク処理(パケットパイプライン)

パケット解析 → ルーティング → フィルタリング をステージ化。


誤解しやすい点・注意点

ステージを増やせば必ず速くなるわけではない

レイテンシ増加、制御複雑化、消費電力増加などの副作用がある。

パイプライン化は「組み合わせ回路の分割」だけではない

ハザード処理、制御ロジック、ステートマシンとの整合も必要。

レジスタ挿入は物理設計と密接に関係する

配線遅延、クロックツリー、配置配線の影響を受ける。

スループットとレイテンシは別物

高スループット化しても、単体データの処理時間は短くならない。


図解

パイプライン動作(データがステージを流れる様子)


イニシエーションインターバル(II=1 と II=2 の比較)


パイプライン深さと出力タイミング(II=1 の場合)


関連する専門用語の整理

用語定義実務での意味
パイプライン処理を段階に分割し並列化する手法CPU の 5 段パイプライン高スループット化の基本
ステージパイプラインの 1 段IF/ID/EX/MEM/WB性能・レイテンシに影響
レイテンシ入力→出力までのクロック数5 ステージで 5 クロック遅延評価の指標
スループット単位時間あたりの処理量毎クロック 1 データAI/DSP で最重要
ハザードパイプライン特有の競合データハザード制御ロジックの複雑化要因
バブル空サイクルハザード時の 1 サイクル待ち性能低下要因
レジスタ挿入組み合わせ回路の分割加算器→レジスタ→乗算器タイミング収束の要
II(イニシエーションインターバル)新規入力を投入できる最小間隔II=1/II=2スループットを決める指標

まとめ

  • パイプライン設計は スループット向上と高周波数化 のための基本技術
  • ステージ分割により クリティカルパス短縮・タイミング安定化 が可能
  • ハザード処理やバブル削減など、制御面の工夫が不可欠
  • CPU、DSP、FPGA、ネットワーク処理など幅広い分野で必須
  • II(イニシエーションインターバル)はスループットを決める最重要指標
  • 実務では、論理設計と物理設計の両面からパイプラインを最適化することが求められる

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