この記事で学べること
- LogicBIST(ロジックBIST)の概要できる。
- 導入背景と目的、従来手法との違いを把握できる。
- 基本概念(PRPG、MISR、Signature 等)を把握できる。
- 実務での適用シーンと設計フロー上の位置付けが分かり、次の設計ステップに進むための基盤が得られる。
概要
LogicBIST(Logic Built‑In Self‑Test)は、ロジック回路に対してチップ内部で自己テストを行うための回路群と制御フローを指す。主にテストパターン生成(PRPG)→回路への適用→出力圧縮(MISR等)→Signature比較という流れで故障検出を行い、外部ATE(自動試験装置)からの大容量パターン転送を最小化することを目的とする。LogicBISTはオンチップのLSIテスタとして位置づけられる。
なぜ重要なのか
- テストデータ量とテスト時間の爆発的増加への対処:回路規模が増大する中、従来のストアドテスト/スキャン方式ではテストデータ量やテスト時間が増大する。LogicBISTはチップ内でパターン生成と応答圧縮を行うため、外部ピン経由のデータ転送を大幅に削減できる。
- 製造コストとオンボードテストの効率化:ATE時間短縮やオンボード(実装基板上)でのセルフテストにより、製造・フィールドでの検査コストを下げられる。
- 安全性規格対応(車載など):ISO 26262 等の機能安全要件を満たすために、信頼性の高いテスト手法としてLogicBISTを含むDFT(Design for Testability)ソリューションが重要視されている。ツールベンダは車載向け適格性を整備している。
基本概念の整理
PRPG(Pseudo‑Random Pattern Generator)
擬似乱数列を生成する回路。典型的にはLFSR(線形帰還シフトレジスタ)を用いる。
- 例:16ビットLFSRがクロックごとに擬似乱数を出力し、組合せ回路の入力に供給する。
- 実務での意味:外部から大量のパターンを供給する代わりに、オンチップで多数のテストパタンを短時間に生成できる。LFSRの多項式選択や初期シードは検出率に影響するため設計時に最適化が必要。
Response Compaction / MISR(Multiple Input Signature Register)
回路の出力応答を逐次的に圧縮して短いSignatureにまとめる回路。MISRは複数ビットを同時に圧縮できる構造。
- 例:各クロックで回路出力をMISRに取り込み、最終的に得られたNビットのSignatureを期待値と比較する。
- 実務での意味:出力ビット列を圧縮することで外部に取り出すデータ量を削減するが、圧縮に伴うエイリアシング(偽陰性)のリスクがあるため、MISR設計と故障シミュレーションで検出率を評価する必要がある。
Signature
MISR等で圧縮された最終的なビット列(期待値)。
- 例:テスト実行後に得られる32ビットのSignatureが設計時に算出した期待Signatureと一致すれば「合格」と判定する。
- 実務での意味:Signatureはテストの判定基準。期待値は故障シミュレーション(ATPG)で事前に算出し、フォルトの検出率を評価する。Signatureの格納・更新方法(ハード固定か外部制御か)も運用上の重要設計項目である。
Test Point Insertion(TPI)
検出率向上のために内部ノードにテストポイント(制御点/観測点)を挿入する手法。
- 例:不定値マスクやフリップフロップを追加して、PRPGからのパタンが回路深部に到達しやすくする。
- 実務での意味:TPIは検出率とエリアオーバーヘッドのトレードオフ。自動挿入ツールが検出率推定を行い、最適箇所を探索するのが一般的。
LBIST制御インタフェース(JTAG/TAP等)
BISTの起動、シード設定、Signature読み出しなどを行うための制御I/F。JTAG(IEEE 1149.1)や専用シリアル制御が使われる。
- 例:JTAG経由でLBISTを起動し、テスト完了後にSignatureを読み出す。
- 実務での意味:オンボードテストではピン数が限られるため、制御I/Fは簡潔である必要がある。I/F設計は運用(ATE実行かオンボードか)に依存して最適化される。
実務での具体的な利用シーン
- 製造テスト(Wafer/Package)
- ATE時間を削減するために、LogicBISTを用いてチップ上で多数のパターンを生成・圧縮し、外部には最小限の制御とSignatureのみをやり取りする。
- オンボード(In‑System)セルフテスト
- 実装基板上で電源投入時や定期診断でLogicBISTを実行し、フィールドでの故障検出やリグレッションチェックに利用する。ピン数制約のため、パタン数や制御を固定化する運用が多い。
- 安全クリティカル領域の診断(車載・医療)
- ISO 26262 等の要求に応じ、LogicBISTを含むDFTフローを用いて製造テストと設計検証のトレーサビリティを確保する。ツールの適格性(TCL)やドキュメント整備が重要。
- 設計段階での検証(等価性検証・故障シミュレーション)
- LogicBIST挿入後の等価性検証(RTL→挿入後RTL)や、ATPGベースの故障シミュレーションで検出率を評価し、TPIやパタン数を決定する。ツールチェーン(合成→DFT挿入→ATPG→検証)が自動化されることが多い。
誤解しやすい点・注意点
- 「LogicBISTは万能でテスト時間をゼロにする」ではない:LogicBISTは外部データ転送を削減するが、オンチップでのパタン実行時間やSignature計算時間は発生する。テスト時間短縮は設計次第であり、最適化が必要。
- Signature圧縮は偽陰性(エイリアシング)を生む可能性がある:圧縮により異なる故障が同一Signatureになるリスクがあるため、故障シミュレーションで検出率を定量評価することが必須。
- エリア/電力オーバーヘッドのトレードオフ:PRPGやMISR、TPIの挿入はシリコン面積と消費電力を増やす。オンボード運用やATE運用で必要な機能を見極め、オプションを削減する設計判断が重要。
- ツールとフローの整合性:LBISTは合成・DFT挿入・ATPG・等価性検証を跨ぐため、ツール間の入出力(スクリプトや設定)の整合が運用効率に直結する。ベンダー提供の自動化フローを活用するのが実務的。
関連する専門用語の整理
| 用語 | 定義(簡潔) | 実務での意味 |
|---|---|---|
| LogicBIST | チップ内で論理回路を自己テストする仕組み | ATE負荷低減・オンボード診断に利用。設計フローでDFT挿入が必要。 |
| PRPG | 擬似乱数パタン生成器(通常LFSR) | 大量パタンをオンチップで生成。シード/多項式が検出率に影響。 |
| MISR | 出力応答の圧縮レジスタ | Signature生成に用いる。圧縮によるエイリアシングに注意。 |
| Signature | 圧縮後の最終ビット列(期待値) | テスト判定基準。期待値は事前に算出・格納。 |
| TPI(Test Point Insertion) | 検出率向上のための観測/制御点挿入 | 検出率向上とエリア増加のトレードオフ。自動挿入ツールで最適化。 |
| ATE | 自動試験装置(外部テスタ) | 従来のテスト手段。LogicBISTはATE依存を低減する手段。 |
| 等価性検証(LEC) | 挿入前後のRTL等価性確認 | LogicBIST挿入で機能が変わっていないことを保証する必須工程。 |
| TCL / ISO 26262 | ツール適格性や車載安全規格 | 車載用途ではツールの適格性とドキュメントが重要。 |
まとめ
- LogicBISTは「オンチップでのパタン生成+応答圧縮」によって、外部テスト負荷を低減し、製造・オンボードでの検査を効率化する技術である。
- 主要構成要素(PRPG、MISR、Signature、TPI、制御I/F)を設計段階で適切に選定・最適化することが、検出率とオーバーヘッドのバランスを決める。
- 等価性検証と故障シミュレーションによる検出率評価は必須。特に車載など安全性が厳しい用途ではツール適格性やドキュメント整備が求められる。


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