2026年2月10日 – Cadenceは、フロントエンド設計と検証を自動化する「ChipStack AI Super Agent」を発表した。仕様や高位記述から設計・検証を自律生成する世界初のエージェント型AIワークフローを提供する。このAIエージェントは、コード生成、テストベンチ作成、テストプラン生成、リグレッションテストの実行、デバッグ、問題修正までを自動化し、最大10倍の生産性向上を実現する。NVIDIAやQualcommなど主要企業がすでに評価を開始しており、次世代チップ開発の効率化に向けた新たなアプローチとして注目される。
発表の背景:設計規模の拡大とエンジニア不足
近年の半導体開発は、AIアクセラレータ、HPC、5G/6G、車載SoCなどの高度化により、RTL規模・検証工数が急増している。特に以下の課題が顕著である:
- 検証工数の肥大化:SoCの機能数増加により、テストプラン作成・テストベンチ構築・リグレッションテストの負荷が増大
- 熟練エンジニア不足:高度な検証スキルを持つ人材が不足し、プロジェクトの遅延リスクが高まる
- 設計サイクル短縮の要求:AI・データセンター市場の競争激化により、Time-to-Marketが重要な差別化要因に
こうした状況の中、Cadenceは「AI-for-Design」と「Design-for-AI」を掲げ、EDAフロー全体にAIを組み込む戦略を推進してきた。今回のChipStack AI Super Agentは、その戦略の中核となる新しいアプローチである。
発表内容の詳細:ChipStack AI Super Agentとは何か
ChipStack AI Super Agentは、フロントエンド設計・検証フローを自律的に実行する“AIエージェント群”を統合したプラットフォームである。
主な機能
- 仕様・高位記述からRTLコードを自動生成
- テストベンチ生成・テストプラン作成の自動化
- リグレッションテストのオーケストレーション
- デバッグと自動修正(Auto-Fix)
- 複数のAIエージェントが協調して作業を分担
これにより、従来人手で行っていた設計・検証タスクをAIが“仮想エンジニア”として実行する。
Cadenceツールとの統合
ChipStackは以下の既存AI/EDA基盤と連携する:
- Verisium Verification Platform(検証AI)
- Cadence Cerebrus Intelligent Chip Explorer(物理設計AI)
- JedAI Data and AI Platform(EDAデータ基盤)
これらの実績あるAI技術を統合し、フロントエンド領域に特化したエージェントワークフローを構築している。
モデル柔軟性
- NVIDIA Nemotronなどのオープンモデル
- NVIDIA NeMoによるカスタマイズ
- OpenAI GPTなどのクラウドモデル
オンプレミス・クラウドの両方に対応し、企業のセキュリティ要件に合わせて導入できる。
技術的ポイント
最大10倍の生産性向上
AIエージェントが以下を自動化することで、設計者の作業負荷を大幅に削減:
- RTLコーディング
- テストベンチ作成
- テストプラン生成
- リグレッションテストの実行
- デバッグと修正
特に検証領域では、テストケース生成やフォーマル検証の効率化が大きな効果を生む。
エージェント協調によるワークフロー最適化
複数のAIエージェントが役割分担し、
「コード生成 → テスト生成 → リグレッション実行 → デバッグ → 修正」
という一連のフローを自律的に回す。
これは、従来のツール単体の自動化とは異なり、ワークフロー全体をAIが管理する点が革新的である。
検証品質の向上
- フォーマル検証の効率化
- テストカバレッジ向上
- デバッグの高速化
AlteraやTenstorrentのコメントからも、4〜10倍の検証効率改善が確認されている。
ビジネス的ポイント
エンジニア不足への直接的な解決策
Cadenceは「シニアエンジニア不足」を明確に課題として挙げており、ChipStackはその補完として機能する。企業は限られた人員でより多くの設計を回せるようになる。
大手企業による早期採用
以下の企業がすでに評価・導入を開始:
- Altera
- NVIDIA
- Qualcomm
- Tenstorrent
特にNVIDIAは、Mental Modelsや自動テストプラン生成との組み合わせにより、AI×EDAの新たな可能性を示している。
Cadenceの競争優位性
Synopsys.aiやSiemens EDAのAI戦略と比較して、Cadenceは以下が強み:
- Verisium/Cerebrus/JedAIなど既存AI基盤の実績
- エージェント型ワークフローという新しいアプローチ
- 大手顧客による早期評価
AIによるフロントエンド自動化は、EDA市場での差別化要因となる。
今後の展望
Silicon Agentの実現に向けた進化
Cadenceは、設計・検証・物理設計・システム設計を横断する“真のシリコンエージェント”を目指しており、今回の発表はその第一歩といえる。
フロントエンド自動化の標準化
ChipStackの普及により、「AIが設計し、人がレビューする」というワークフローが一般化する可能性が高い。
エコシステム全体への波及
- IPベンダー
- ファウンドリ
- システム企業
これらの領域でAIエージェント活用が広がり、EDAフロー全体の効率化が進むと予想される。

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