1. この記事で学べること
- アナログ設計とは何か、その役割と範囲
- アナログ回路を構成する基本概念(増幅・フィルタ・フィードバックなど)
- 実務の設計フローと関連する評価指標
- デジタル設計との違いと補完関係
- アナログ設計が必要とされる典型的な利用シーン
- 初学者が誤解しやすいポイントと注意点
2. 概要(全体像)
アナログ設計とは、連続量(電圧・電流・時間・周波数)を扱う電子回路を設計する技術領域です。センサー信号の取得、電源の安定化、RF通信、音声処理など、現実世界と電子システムをつなぐ部分の多くはアナログ回路が担います。
アナログ設計の全体像は、以下の 4 つの柱で整理できます。
- 信号処理(増幅・フィルタ・変換)
- 制御(フィードバック・安定性)
- 電源・エネルギー管理(レギュレータ・DC-DC)
- 物理デバイスの理解(トランジスタ・抵抗・容量・寄生)
これらは単独ではなく、連続量の精密な制御という目的のもとで密接に結びついています。
3. なぜ重要なのか(背景・目的)
アナログ設計が重要であり続ける理由は、電子システムが必ず 物理世界と接続する必要があるためです。
背景
- センサーは連続量を出力する
- 電源はノイズ・変動を持つ
- 通信は周波数領域での制御が必要
- デジタル回路もアナログ的な制約(ジッタ、ノイズ、IR drop)を受ける
目的
- 物理信号を扱いやすい形に整える(増幅・変換)
- ノイズや歪みを抑え、安定した動作を保証する
- 電力効率・線形性・帯域などの性能を最適化する
アナログ設計は、電子システムの「入り口」と「土台」を支える技術であり、デジタル設計の性能を最大限に引き出すためにも不可欠です。
4. 基本概念の整理
増幅(Amplification)
定義:小さな信号を大きくする操作。
例:センサー出力(mV レベル)を ADC 入力レベル(数百 mV〜数 V)に引き上げる。
実務での意味:ゲイン、帯域幅、ノイズ、線形性のトレードオフを理解し、目的に応じたアンプ(OP-AMP、TIA、LNA)を選択する。
フィルタリング(Filtering)
定義:特定の周波数成分を通過・除去する操作。
例:電源ノイズの除去、音声帯域の抽出。
実務での意味:RC フィルタ、アクティブフィルタ、PLL などを用いて、周波数領域での信号品質を制御する。
フィードバック(Feedback)
定義:出力の一部を入力に戻し、動作を安定化・制御する仕組み。
例:OP-AMP のネガティブフィードバック、PLL のループ制御。
実務での意味:安定性(位相余裕・ゲイン余裕)を確保し、過渡応答やノイズ特性を最適化する。
デバイス物理(Device Physics)
定義:トランジスタや受動素子の電気的特性を理解する領域。
例:MOSFET の gm、ro、寄生容量。
実務での意味:回路性能の限界を決める要素であり、プロセスノードやレイアウトの影響を理解することが不可欠。
ノイズ(Noise)
定義:信号に重畳するランダムな揺らぎ。
例:熱雑音、1/f ノイズ、電源ノイズ。
実務での意味:SNR、ENOB、ジッタなどの性能指標に直結するため、ノイズ源の分解と対策が必須。
5. 実務での具体的な利用シーン
センサーインターフェース
- 温度・圧力・加速度などの微小信号を増幅
- ノイズ除去と帯域制御
- ADC への入力条件を整える
電源回路(Power Management)
- LDO による安定化
- DC-DC コンバータによる高効率電力供給
- 電源ノイズが SoC や RF に与える影響を最小化
通信・RF 回路
- LNA による微弱信号の増幅
- ミキサによる周波数変換
- PLL によるクロック生成とジッタ制御
デジタル回路の周辺
- クロックツリーのジッタ管理
- IO バッファのアナログ特性
- 電源インテグリティ(PI)解析
6. 誤解しやすい点・注意点
「アナログは勘と経験の世界」という誤解
確かに経験は重要だが、現代のアナログ設計は モデル化・解析・シミュレーション が高度に体系化されている。
デジタル設計と完全に分離しているわけではない
ADC、PLL、SerDes などはアナログとデジタルが密接に統合されている。
SPICE シミュレーションだけでは不十分
寄生、レイアウト、温度、プロセス変動など、実シリコンでの振る舞いを考慮する必要がある。
ノイズや非線形性は「後から調整できない」
初期段階での設計方針が最終性能を大きく左右する。
7. 関連する専門用語の整理
| 用語 | 定義 | 例 | 実務での意味 |
|---|---|---|---|
| 増幅(Gain) | 信号の大きさを増やす操作 | OP-AMP、LNA | センサー信号のレベル調整 |
| 帯域幅(Bandwidth) | 信号が通過できる周波数範囲 | 20 kHz オーディオ帯域 | 応答速度・ノイズ特性に影響 |
| フィードバック | 出力を入力に戻す制御 | 負帰還アンプ | 安定性・線形性の向上 |
| ノイズ | 信号に重畳するランダム成分 | 熱雑音、1/f ノイズ | SNR、ENOB に直結 |
| デバイス物理 | 素子の電気特性の理解 | MOSFET の gm, ro | 回路性能の限界を決める |
| レイアウト寄生 | 配線・素子配置による寄生成分 | 配線容量、寄生抵抗 | シミュレーションとの差異の原因 |
| ADC | アナログ信号をデジタル化 | SAR, ΣΔ | システムの精度を決める要素 |
| LDO | 低ドロップアウトレギュレータ | 電源安定化 | ノイズ源の抑制 |
8. まとめ
- アナログ設計は 物理世界と電子システムをつなぐ基盤技術
- 増幅・フィルタ・フィードバック・デバイス物理などの基本概念が柱となる
- 電源、センサー、通信など多くの実務領域で不可欠
- ノイズ・非線形性・寄生など、現実世界の制約を扱う点が特徴
- デジタル設計と補完し合い、システム全体の性能を左右する

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